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金輪と六道がこの雪山にやってきたのは偶然であった。
とある霊山を訪ねる道中ではあったが、この山はただ越えるだけだったのだ。
しかしこの山は異様な気配を放っていた。山の一部が邪気に包まれている。
山には神が住んでいることがある。それに何かがあったのかもしれないと知識から金輪は推測した。
「行くのか」
六道が虚ろな瞳で金輪を見つめながら問うてくる。
「これも修行だろう、ここの怨霊を浄化できないとなったらお前を浄化なんてとてもじゃないが無理だ」
「…ま、いいさ。どうせ守るのは俺だ」
「…?」
金輪は眉をしかめるが六道は魔のモノであるので深く聞くのは避ける傾向にあった。
それが今の時点での金輪が自分を保つための処世術だ。
雪深く歩きづらい獣道を進み開けた場所に出た。
そこには赤く燃え上がる焔。
妖かしたちが寄り集まり、とらえた死者たちの魂でもって強大な怨念の焔となっていた。
それがこの雪山の神であるらしい存在を炎の槍で突き殺していた。
血の通った肉体を持っているわけではないのでそれで神は死ぬことはないが、抵抗の意思がないのか動けないのか、神側に反応はなかった。
「はぁっ」
金輪は駆け出しながら金色に輝く法輪を数個生み出すと焔に向かって放つ。
焔は槍を振るって法輪を砕き、揺らめいていただけの焔は人の形をとった。
核にされている死者なのだろう、マタギの姿をした男が鬼のような形相で金輪を睨み穂先を向ける。
『か・え・せ』
地の奥底から響くような声。恐ろしいほどの圧迫感がこの場に襲い掛かってくる。
しかし実際の地獄を巡ってきた金輪は特に反応もせず懐の剣を抜き、穂先を捌きながら法輪を投げる。
『アアアアアアッ!!!!』
腕を焔にして男は法輪を握り砕くとそのまま炎を伸ばし金輪を撫でる。
「あっつ!?」
顔を歪ませて怯む金輪。近くまで来ても熱さを感じていなかったのだが、触れられるだけで火傷のような痛みを覚えた。
男は笑う。
焔が金輪を襲うが寸前のところで骨の壁が生まれて金輪を守った。
「神殺しの炎だ」
六道が口元を歪ませながら呟く。
「俺、神になってなくてよかった」
無常大鬼とも呼ばれる六道は楽しそうに笑いながら金輪を掴み上げると邪魔だと言わんばかりに後ろへ投げる。
「こいよ、俺が相手してやる」
『かえせぇ!!』
焔が広がる。
金輪はその焔に地獄を連想し怯えるが、自分がやれることをするために震えながら地を這い例の山神のもとへ向かう。
あのような焔に貫かれていたのにまだ存在感があるそれは横たわっていた。
抱き上げて霊力を通すと彼は気が付いたのか目を開いた。
『ここ、は…?きみは、だれ?』
「通りすがりの祓魔師だ。お前は自分が何なのかわかっているのか?」
『僕…?僕は…何だろう…何か、忘れてしまっているね…』
悲しそうな顔をする。
『あ…』
山神は身を起こす。金輪を通り抜けて焔を凝視する。
「そっちは危険だ、お前を殺そうと―――」
『マツ』
山神の声に焔がより一層大きくなった。
『凍原…?』
勢いの増す焔に反してその声はか細く弱弱しかった。
*****
『マツ、そこに居たんだね』
六道も擦り抜けて凍原は巨大な焔を抱き締め中から例の男が凍原の腕の中に納まった。
凍原は焔を払うように手を動かすと、すっと焔は消えていく。
凍原は目を覚まさないマツを強く抱き締めて目を閉じた。凍原を中心に吹雪が吹き上がり始める。
吹雪は二人を隠していく。
「あ…」
金輪は手を伸ばすがその手は六道に捕まれそのまま引き摺られていく。
「あいつは本当の山神に成った」
「…」
六道の言葉に金輪は暗い目をする。神に簡単に成れてしまったのは凍原の才能であろうか、羨ましくさえ思う。
自分はまだ神に至れない。
「なに落ち込んでんだ?あいつはすぐに神なんてやめるだろ。」
「なぜ?」
神になることが最終の目的であるという考えを持っている金輪は六道を見つめる。
六道は虚ろな瞳で金輪を見返してて口角を上げた。
「あいつは二人で生きたいだろうからな…またここに来ようぜ。面白そうだ」
「なにが面白いのか解らない」
金輪は疲れた様子で呟いた。悪趣味なことでなければいいのだが、と思う。
*****
数十年後、六道は山に戻って二人の遺体を見つけ出して金輪に埋葬させた。
山は神の住んでいない普通の山になっていた。凍原が贄をとらずに神をやめたためである。
凍原は氷漬けになっており、そのそばにマツの遺体があった。二人は近くにいたのだ。
なのに山神や妖かしたちが二人を捻じ曲げたのである。
「……」
虚ろな目で金輪は凍原たちの墓を見つめていた。
「また来世で巡り合えればいいのにな」
「お前が願うとそうなるぞ、円迦」
「俺にそんな力はない」
それから数年が経ち、金輪たちは再び山を訪れて赤子を拾った。
「お前はやっぱり輪廻を弄れるな」
六道の言葉は金輪には解らなかった。自分が何かしらの力を用いたわけではない。
六道の勝手な言い分だ。
それよりもこの赤子を育てなくてはいけない。そちらのほうが大変な気がして、金輪は渋々シスターダリアのいる修道院へいくことになった。
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