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文章は司さんです
これはハッピーエンド。
「正法院、くん」
硬い声で呼ばれて、正法院奏も身を硬くした。恐る恐るに振り向いた先に立つ寺田神子を見ると、あちらも顔が強張っている。うろうろと目線が安定せず、スカートを握る手も落ち着かない。奏はできるだけいつも通りの声で「何か、用、かな?」と尋ねた。
「……放課後、空いてる?」
「……空い、てる」
「……よかった」
暗黙の了解のようなやり取りが終わり、二人はそのまま離れた。そうして、奏は死刑囚のような面持ちで、寺田神子の家にやってきた。
あれで終わると思ったのに。
先日の出来事を思い起こして、左腕がずんと重くなる。逆に、あんなことをしたから、彼女は怒ってますます苛烈なことをしようとしているのかもしれない。だとしたら、今日はどんなことをされるんだろう。恐怖にぶるりと震えながら、暗澹と神子の部屋に入る。神子はすでに部屋にいて、椅子に座ってこちらを見ていた。
「……お邪魔します」
「……」
「……あの」
「奏くん」
強張った声で呼ばれ、奏はびくりとした。立ち上がった神子はつかつかと奏のそばに来て、じっと見上げてくる。その顔は、いつも自分をいじめる様子と違う。なんだろう、なんなんだろう。冷や汗をじわり滲ませる。
すると、神子は腕を伸ばして、奏に抱きついてきた。奏がひゅっと息を呑むと、絞り出すような神子の声が続いた。
「……して」
「…………え?」
「この間みたいに、して」
今なんと。頭の中が真っ白になった奏をまた見上げる神子の顔は、トマトのように真っ赤だった。
「こ、この間みたいに、して! お、おかしいの、あれから身体が変なの! 落ち着かないの! い、今までのこと謝るから! おね、お願い、だから」
「いや、待って、待とう、寺田さん、ちょっと!」
慌てて神子を引き剥がす奏の顔も真っ赤だ。「こ、この間みたいにって」
「だめ……?」
「だめも何も、」
言いさして、また左腕がずんと重くなる。いつもの理不尽な暴力と言葉の鞭とに晒されて、自分を踏みつけて見下ろしながら嗤う神子を見上げている中で、不意に浮かんだ男のプライド。反撃されるなんて思ってもいない彼女を引き倒して、自分よりよっぽど小さな身体を押さえ込んで。もがく彼女の叫んだ「そこはダメ、そこは……」という言葉をかろうじて聞き入れたのと、自分と同じ気持ちを味わえばいいという仕返しの怒りのままに……
そんな。そんな。事の後に力なく伏した神子を目の当たりにしてもしばらくはおさまらなかった激情も、帰り道にはすっかり冷えて、女の子にひどいことをしてしまったと、奏はその夜さんざん悔いたのだ。もちろん今までされたことへの意趣返しなのだから謝らなくてもいいんじゃないかという気持ちもあったし、これで彼女が考えを変えてくれたならもういじめられずに済むのではという考えもあった。なのに、なんでこうなる?
そして、何もしようとしない奏に焦れたように、焦ったような顔の神子は、奏の目の前でワイシャツをはだけた。我に返った奏が慌てて着せようとするもの、神子の方が早かった。シャツの隙間から下着を覗かせながら跪くや、奏のベルトに手をかけて、あっという間に触れてきた。今までのこともあってぎゃっと悲鳴を飲み込むけれど、悲しいかな、若い身体はすぐに反応してしまう。神子はほっとしたように奏のそれに頬を寄せたし、シャツをますますはだけもした。
「ねえ、奏くん、お願い、これちょうだい、……ずっと落ち着かないの、こんなの奏くんにしか言えないの……」
そりゃあそうだろう。奏は反論したかったけれど、どだい無理な話。あっという間に上がった熱に言葉は出ないし、頭は勝手にあの時の神子の姿だとか声だとかを思い出してしまう。全て脱がすなんてことはしなかったし、逃げようとするのを片手で押さえもしたし、白い肌に無遠慮に触れたし、……神子がか細く鳴いたり、泣きそうな顔をしていたり、かすかに聴こえた喘ぎ声があったりしたと、神子を目の前にして思い出してしまって。
ああ、だめだ。奏は自制心があるほうだけれど、男子高校生なのだ。どうして我慢できるだろう。
跪く神子を抱きかかえて、神子のベッドに連れて行く。期待と不安とがないまぜな神子の笑みにまた頭が熱を持ったので、そのまま覆いかぶさった。神子のシャツのボタンを外して素肌をまさぐり、下着ごしに膨らみに触れる。神子は短く息を吐いてぴくんと跳ねて、もどかしげに下着を外す。ふるん、とあらわになった膨らみがたまらなくて、奏はむしゃぶりつくように吸い付いた。神子も奏にしがみついて、もっともっとと身をよじる。
前回の奏の反撃に驚いたし、怒らないと思っていた奏の剣幕が怖かった神子だったけれど、あれ以来なぜか身体が疼いた。もっと奏に触れられたい、あんなふうにまたされたいと思うようになってしまった。夜な夜な疼く身体を落ち着けようと、はしたないとわかっていながら自慰もしたけれど、ちっとも熱がおさまらない。学校で奏の姿を見るたびにますます熱は上がる始末。あの手に触れられたい、のしかかられたい、乱暴にされたい。あの日からどくどくと高鳴る心臓は今も落ち着かない。
でも、今の高鳴りはなんだか違う。もっとこの高鳴りが欲しい。熱くなりたい。あの怖さをまた味わいたい。早く、早く。だから神子は奏に体を押し付けるし、奏の手を取って触れてほしい場所へと押し付けるし、知らず知らずしどけなく身をよじる。もっとして、ねえ、奏くん。荒い息をしながら懇願して、もう一枚の下着も脱ぐ。どきどきと胸を高ぶらせて、そっと脚を開く。
「かなで、くん、……また、ここに、ちょうだい」
求める場所を辿々しく指で広げる神子の姿に、奏はたまらなくなった。だから、神子の尻のすぼまりに押し入った。神子は嬉しそうに悲鳴を上げた。相変わらずきついし、思うようにも入れないのだけれど、ゆっくりと腰を進めて全部収めた。はあっ、とため息をすると、神子が手を伸ばしてきた。
「かなで、くん、……うごいて、いっぱい、ね、ね?」
首に絡んだ手にそのまま抱き寄せられて、奏もぎゅうと神子を抱きしめて、ゆっくり引き抜いてまた押し込める。神子は鼻にかかった甘い声を上げて、奏にしがみついた。そうするとますます奏は締め付けられたし、奏が触れていない神子の秘裂はますます潤うのだから、勢いがまたついた。ちらり見える神子の顔はというと、触れられていないのに濡れている場所への恥じらいだか、はしたなく快楽を追うさまだか、よくわからない。そんな顔でいや、だとか、そこ、だとか、小さく鳴いては奏をますます求めてくる。
もっと神子を泣かせてしまいたい。
じくりと湧いたいじわるに、また左腕がずしんとする。それでも神子を抱きしめていたかったから、神子にのしかかるようにして穿った。いい場所だったのか、神子がひときわ大きな声を出した。
「ひやぁんっ! か、かなでく、やっ、そこ、やあっ!」
「僕が、嫌だって、言っても、やめなかった、くせに!」
「あっ、あ! や、ご、ごめんなさ、かなでくん、ごめんなさああやああああ!」
神子がいやがった場所を何度も行き来して、腹立ちまぎれに音を立てて打ち付ける。神子の腰が面白いほど跳ねて、いやいやとかぶりを振って気持ちよさを逃がそうとするくせ、手はしっかりと奏を掴んで離さない。奏はなぜだかたまらなくなったから、更に激しく深く貫いた。神子もそんな奏がとてもたまらなくて、奏にしがみついて、シャツの隙間から見える肩に噛み付いた。奏がびくりと震えて呻いたのが、またたまらなかった。
「かなでくん、かなでくん、かなでくん……!」
「てら、だ、さん……!」
お互いがお互いを呼んで、どっちが先かはわからないけれど、どっちも果てた。神子は声にできない声をあげながらびくびく跳ねたし、奏も低く呻きながら神子の腹の中に出した。
「あ、あ……あつい、おなか、あつい、おなかあついよお……かなでくぅん……」
搾り取ろうとするようにしながら、神子が奏の耳元で茫然と呟く。熱を出しているのだから下がっていいはずなのに、そんなふうに言われてしまってまた上がる。神子はびくっとしたから、気付いたのだろう。恐る恐るに奏を見上げる顔は、不安と期待がまたないまぜだった。
だめだ、そんな顔されたら。
奏は神子を組み敷いて、腰を少し引き抜いて、勢いよく押し込んだ。神子は嬉しそうにまた声をあげて、奏にしがみついた。ぎしぎしとベッドがきしむ音と、低い呻きと時たまの怒りの言葉と、謝罪と喘ぎ声とが入り混じった嬌声は、しばらく途切れなかった。
この頃から、寺田神子は正法院奏をいじめるのをやめた。やめる代わりに、別のことをするようになった、のだとか。
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