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前世の夢。
 巻は照明を消してベッドに潜り込む。

 今日も変わらずの日々でした。

(…そういえば)

 ふと思い出す巻。

 帝威教授が『魔法使いは前世の記憶を見れたりするんだよ』なんてことを言っていた気がする。

 そうやって前世の知識を会得して今に繋げていくらしい。

 巻は別に魔道を極めるつもりもなく、ただちょっと生活に役立つ便利グッズ程度でいい。

 帝威教授は色々試してほしそうな顔をしていたが。

 まぁ父のことを尊敬しまくってる彼なので、その娘を拉致して実験の道具に使うことはないだろうけれども。

「前世の記憶でも、いい記憶なら見てみたいなー」

 なんて呟きながら巻は夢の中へ意識を落としていく。



   *****



 温泉が気持ちいい。

 乳白色の湯に浸り、露天なので涼しい風が時たま吹いてもっと長く居たくなる。

(わー、リアルな夢だなー…あれ?なんで夢ってわかるんだろ)

 巻の意識はそう思う。

 映像を見ているような感じに近く、体は自由に動いてくれない。

『巻、逆上せないように気をつけろ』

 ふと気づけば、横にいるのは奏だった。

『はぁーい』

(か、かかかかっかなでさんと混浴!!!!!???!?!)

 動揺する巻だが、奏の横にいる自分はそれが当然らしい。まったく動じない。

 よく見れば、奏は大人だ。今の奏も年齢からしてみれば大人っぽく見えるが、こちらは貫録がでているというか隙がないというか。

(…奏さんも将来こんな感じに…なるのかな…)

 思いながらも少し違和感があった。

 本能的に、違うかもしれないと思ってしまう。

 彼は目の前の彼にはならない、と。






 飛び起きる巻。

 顔を真っ赤にさせてニャーーー!と奇声を上げながらゴロゴロとベッドの上で転げまわる。

「恥ずかしい!!!!!」

 恥ずかしくてえっちな夢を見てしまった。

 あの後のお風呂えっちから布団の中での濃厚なえっちまで思い出せてしまう。

「前世の私…子供、欲しかったんだ…。奏さんとの…」

 寂しい気持ちになる。

 愛する者はいつ死んでしまってもおかしくないから

 せめて子供を

 愛する者の子供を

 そして巻自身が奏の帰る場所だと形に残していたくて…

「今の奏さんがとても優しいのは、そういうことがあったからかな…」

 いつも気遣ってくれる奏さん

 困ったらすぐに助けてくれる奏さん

 少し不器用だけど、優しくしてくれる奏さん

「奏さんの良妻に…なるッ!」

 気合いをいれる巻。

 ちらちらと脳裏にみこの悪魔のような笑顔が浮かぶが無視した。



   *****



「奏さん!巻のこと好きですか!?」

 巻の質問に、奏は首をかしげつつ

「好きだよ?」

 と答えながら頭を撫でてくる。

 巻は頭を撫でられてその心地よさににへらっと顔が緩むがハッとして顔を引き締めた。

「ライクじゃなくてラブの話なんですよぉ!」

「ら、らぶ…?いや、まだ僕たち高校生…」

「愛に年齢なんて!前世だって二回りぐらい歳の差ありましたし!」

「何の話…?」

「奏さん!」

 ズイっと巻が詰め寄ってくる。

「巻…?一体何が…僕は巻のこと好きだよ?でも、結婚とかまだ早いんじゃないかな?
 僕まだ将来のこと考えてないし…」

「えっ さすがに進路決めないといけなくない?」

 みこがひょっこり現れる。

「みこさんは進路決めてるんですか?」

「沙汰と一緒の大学に行くの。奏くんも来なさいよ」

「…」

「ほら奏さん、将来のこと今からでもきちんと考えましょうよ」

「そうだな…考えたほうがいいということが解ったよ。ありがとう巻。じゃあ僕もう戻るから巻も戻りなよ」

 さっていく奏。

「…ハッ!?なぜ進路の話にすり替わって…」

「ふ、ふ、ふ…抜け駆けできないわよ巻。奏くんは私の物なんだから」

「ずるいですー!」

「巻も一緒の大学に来たらまた一緒に遊べるじゃない?」

「一緒の大学って…めちゃくちゃ頭いいところじゃないですか…」

「巻もお医者になりたいんでしょ?」

「うっ…はぃ」

「ところでどうしてあんな話してたの?」

「夢を見ちゃって…」

「心配性ねー」

 みこは笑って巻の頭を撫でる。

「ちゃんと奏くんと結婚できるわよ。奏くんあなたのこと気に入ってるし?既成事実作るなら手伝うけど?」

「そ、そこまでは…まだ早いかなーって…」

 それは最終手段に取っておきたい巻であった。
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