その日は嵐にブチ当たった日で。そこに巨大イカの怪物に襲われる人生で最高に最悪の日であった。
    
     銛を打ち込み砲弾を浴びせ抵抗するが船体は嵐の時よりも大きく傾き嫌な音を上げている。
    
     船員も海に投げ出され、もしくは自分の様に生臭い足に巻き上げられて締められる。
    
     骨が容赦なく砕け意識が飛ぶとき、たまたま天を仰ぐ視界に入ってきたのは
    
     まだ残っていたマストやイカに刺さったままの銛から上がる青い炎。
    
     そして閃光。大雨だというのに燃え上がる俺たち。
 ―――セントエルモの火を見た。
    
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 海の底だというのに周りが解るのはくっついたイカのせいだと思う。
    
     喧嘩の末、どちらか片方が死ねば残ったほうから消えたほうが生えてくる仕組みらしいというのが解った。
    
     ただイカにそうそう勝てるわけもなく、俺が生える側である。
    
     仲間たちはもういない、残ったのは自分とイカとボロボロの愛しい船。
    
     愛しい船と離れたくないな、という気持ちが強い。
    
     イカはこの船をオトリに使う気になったらしい、腹立たしい。触ってほしくない。
    
     もう俺らは死んでるんだぞ。