ニコイチ

人肉を食べる描写があります

  スターリングは地獄に堕ちた。
 巨大な骸骨の手から落ちてしまったためだ。その時に怪我をして意識を失った。
 気づいたとき、生きているのか死んでいるのかよくわからなかったが何者かに助けられていたのは解った。
 失った左腕の傷口と顔の傷がひどく痛む。

「あ、っ…」

 声を出そうとしたが出なかった。





 鬼に堕ちた金輪(以降は鬼輪と仮称する)は、地獄を彷徨い出口と食料を探していた。
 たまに出会う自分の死骸は安全な食べ物だという認識になっていた。
 出来れば地獄のものを食べたくない、飢えと喉の渇きに苦しんだ金輪は我慢できずに鬼からちょっと食料をいただいてしまった。
 死者の血肉は飢えを満たし喉の渇きを癒したが、それが過ぎ去れば魂が飢えと渇きを訴えるようになった。
 その衝動に耐え切れず金輪は鬼へ変質してしまった。自暴自棄になって血肉を餓鬼のように求めて貪っていたこともあるが、
 長くいると落ち着いてくるのか外に出ようという最初の目的を奇跡的に思い出せたのである。
 それからは鬼から獲物を奪いできる限り地獄のものを食べずに過ごしている。地獄以外の食べ物となると自分の死体になる。
 自分以外の人間は生きていたりするので、さすがに殺して食べるというのは抵抗感を抱けた。
 まだ自分の中に人間っぽさが残っていて安堵する。
 ある日生きている自分を見つけた。かなり大怪我を負っていてそのままにしていれば食料になる。
 しかし鬼輪は彼を助けた。
 服を剥いでぐちゃぐちゃになった左腕をまず千切った。潰れているので再生も不可能だし今度邪魔になるだろう。
 相手―――スターリングは悲鳴を上げているようだが喉が枯れているらしい、悲鳴っぽさはなかった。
「んー…止血。止血か。薬がない。ないな、俺らなんも持てずに地獄に堕ちるの酷くないか?
 許さない骨、絶対ここから出たら殺してやる。まず止血。あー、治らないけど、いいか。死ぬより。」
 鬼輪はぼそぼそと長い独り言をいう。そういう癖がついてしまった。誰とも会話しないせいだ。
 激痛に暴れるスターリングを抑えたまま鬼輪は鋭くなった指先で自分の舌を引っ掻いて血を滲ませるとそのまま傷口を舐め始めた。
 自分の怪我が速く治るようになったので同じモノである彼に血を混ぜたら同じように治ってくれるのではないか?という根拠のない
 応急処置だ。治らなかったらそれは仕方がない、美味しく血肉をしゃぶって味わいつつ手当てをする。
 広い範囲だったが済ませると彼のマフラーを包帯代わりにして巻いた。
 次は顔。同じように舐めて、それから瞼を開かせる。見た範囲では眼球は潰れていないがどうも見えていないようだった。
 中に傷があるのだったらもう手の施しようがない。鬼輪は自分のマフラーを裂いてそれを彼の目元に巻き付けた。
 これで手当ては終わった。スターリングは動けないので鬼輪は彼を抱き上げて歩き始めた。
 千切った左腕だったものを咥えつつ。



     ◇◇◇◇



 スターリングとの彷徨いは鬼輪にとって少し楽しいものであった。
 話し相手がいるというのが素晴らしい。
 どうもスターリングは耳も怪我をしていたらしく聞こえていないようであった。会話は成り立たないが鬼輪は気にしない精神状態であった。
 スターリングに食べさせるものは地獄のものを完全に避けた。鬼になってほしくなかったからだ。
 自分の死体を与えた。
 見えていないのだから何の肉かわからないだろうという気持ちもあった。
 食べやすく崩した肉片を口元に押し付けて食べさせる。
 すこし苦しそうにしつつも食べるスターリングが可愛く思えた。自分自身なのに。
 少し鬼輪の心が柔らかくなってきたころ、恐れていた事があった。
 横になっているとスターリングの悲鳴が上がった。

(あーあ…バレた)

 諦めの表情で思う鬼輪。
 鬼輪の横には手足が飛び出た包みがあるし、地面には掻っ捌いて食べられない部分が散乱している自分の死体がある。
 こんなの見たら悲鳴を上げるだろう。気が狂うかもしれない。
 しばらく背後でスターリングの嗚咽が続いた。
 黙って逃げようかと思ったが彼を捨てきれない自分がいた。彼は自分を捨てるかもしれないのに。
 不意にそっと肩を触れられる。

「…あり、が、とう」

 絞り出すような声が耳元で囁かれて鬼輪は飛び起きた。

「―――なんで!?」

 なぜ礼を言われたのかわからなかった。
 スターリングは微笑んで八端十字架を取り出してくる。そして鬼輪の首から垂れ下がっている八端十字架を指さした。
 自前の八端十字架を無くしたので骨や自分の髪で組んだものなので邪悪に見えるのが欠点なシロモノだ。

「神、の、導き…」
「ここに神なんていない!」
「…なぜ、祈る?」

 鬼輪の口の動きを読んでいるらしいスターリングは首を傾げる。

「……そ、それは、習慣で…」
「あな、たは…ここから、助かりたい、のに、俺、を…助けた、恩人…あり、が、とう」
「……気まぐれ、だ。お前死んだら食べられるしな」
「一緒に、ここから、出、よう…。ごめん、なさい…あなたの、言葉、わからない…聞こえない。」
「知ってるよ」

 頷く鬼輪。

「目、前より見えない、まだ傷痛い…巻いてほしい」

 布を鬼輪に差し出してくる。

「あぁ…」

 言われた通り巻いてやる。
 傷はあれから日が立っているが治ることもなく腐ることもない状態になっていた。
 血は止まっているが生々しい傷のまま残っているのだ。
 ただ目が開いたので治る可能性が出てきた。

「さて、落ち着いたし寝ような!」

 鬼輪は嬉しそうにスターリングを抱き枕にしてしまう。
 捨てられなくて嬉しかったのだ。



    ◇◇◇◇



 スターリングは鬼輪の膝の上に座らされそのまま肉を食べさせられていた。

「…ヤバい」

 鬼輪はスターリングの後頭部に顔を埋めつつ呟く。
 最近体がおかしいのだ、下半身が。スターリングを見て興奮しているときがある。
 自分に対してそんなムラムラするなんて…と思うがここは地獄なので逆にアリなのか?と思ってしまうのである。
 自制で我慢しているが正直そろそろヤバいのである。口に出してしまったが。

「…ん」

 食べ終わったスターリングは舌を伸ばして手の汚れを舐め始める。
 これが嫌らしく感じてしまうのだ、誘ってるのではなかろうか?という気持ちになる。
 というかもう我慢する必要性あるだろうか?ない、ないはずだ。だってここには化け物以外死体しかいないのだから。
 神がいない、咎める者はいない。
 鬼輪の精神はかなり鬼化していた。
 体はほぼ鬼化していたのでやっと精神が追い付いてきたともいうのだが。

「んぅ!?」

 頭を掴まれそのままキスをされたスターリングはわけがわからない。
 口の中を力強い血の匂いがする生暖かいものが蹂躙するのだ。
 抵抗しようにも右手は掴み上げられ逃げようとした体は押し倒される。

「う、んぅっ!ぅっ!ぅ…」

 足で鬼輪を蹴るが幹を蹴っているように硬かった。
 しゅるしゅると布がこすれる音と、肌が空気に触れる感覚。
 さすがの鬼輪も服は破らず丁寧に脱がせた。着替えがないのでその辺は理性が働いたようだ。

「な、にっ!?やめ、てぇ!」
「無理、もう無理!お前美味しそうなんだよ!」
「ひぃ!」

 鬼輪はスターリングの首筋を甘噛みする。
 そして首筋や胸元を舐め始めるのでスターリングは震えた。

「たべる、の…!?やめ、ねぇ…いやだ…」
「殺さないから、大丈夫…殺さない…」

 目元の布を取ってやりながら優しく頭を撫でる。獣の笑みであったが。

「ほら、気持ちよくさせるから。怖がるなって…なぁ?」

 ズボンまではぎ取ってしまう。

「あ、ぅあぁっ」

 涙目でスターリングは首を振って抵抗するが、鬼輪の頭を押しのけることができずそのままナニを咥えられた。

(なんか俺のと違わないか…?あれ?俺の下半身って…鬼になって変化してる…?)

 今更自分のことを思い出す鬼輪だ。

「あぁぁぁっ―――!!!!」

 腰を震わせながらスターリングは鬼輪の角を掴んで身悶える。喉の奥まで飲み込まれて吸われるなど初めての感覚だ。

「ひっ…ぁぁぁ……」

 我慢できずに射精してしまう。

「美味しい…」

 飲み込んでやらしく糸を引きながら笑う鬼輪。

「あっ…あっ…」

 めちゃくちゃその笑顔が怖いスターリングは後ずさるように逃げるが脚を掴まれ引き寄せられる。

「だいじょうぶ、ころさないから…だいじょうぶ…」

 目が完全に据わって信用ならない言葉を囁きつつ鬼輪は自身を取り出すのだがスターリングは余計に怯えた。
 鬼のナニとなったので、サイズが立派になってしまっている。素直に凶器。

「口でする、口で許して…」

 真っ青になりながら妥協案を提案するスターリング。

「口でしてくれるの?」

 ちょっと会話が噛み合っていないが意思疎通ができない二人はそのまま流れた。
 遠慮がちにぺろぺろ舐め始めるスターリング。その姿が可愛くで余計ムラムラしてくる鬼輪。
 自分に興奮するのはどうなんだ、と思うがもともと自分好きだから仕方ないかも…と鬼輪は頭の中を空っぽにした。
 多少ダリアに煽てられていたところもあるが事実エリートだった自分はカッコイイなって思っていた。
 今すごくかっこ悪くなってるけど、それはそれ、である。

「は、んぅっ…ぅ…」

 スターリングは鬼輪を自分自身だと理解しているのか不明なのだが、やはりというか自分だなといったところで…雰囲気もあるだろうが興奮してきているらしい。舌の動きがぎこちなかったのに艶めかしくなってきている。
 ちらちらみえるスターリングのナニも半勃ちしてきていた。

「ごめん、もう無理…」

 鬼輪はスターリングの頭を掴んでナニをねじ込む。

「んぅ゛!ぉ゛っオォっ…」

 目を見開いて苦しそうに唸るスターリングのその喉をがつがつ腰を振って犯す。 

「さすが俺は最高だな!」

 この鬼、最低である。

「出すね?飲んでくれよ、お返しだから」
「ッ…ッ…!!!!」

 ごぼっごぼっと口から零し白目を剥きかけながら痙攣するスターリングが面白くて仕方がない鬼輪。
 自分の酷い姿にも興奮する特殊なサディストが完成してしまった。

「ほらー零してる。吐かないでね?」

 鬼輪は口元を手で押さえる。

「んくっ…ぅっ…うっ…」

 なんとか飲み込み解放されてぐったりするスターリング。これで終わりだと本人は思っているが終わりではないのだ。

「…解すの次からやってもらったほうがいいな…」

 鬼輪は自分の手を見ながら思う。これを突っ込むと腸の裂傷という悲惨な事故が起こってしまう。
 今日は急ぎなので舌で解し、ゆっくり挿入することになった。
 その大きさでも裂傷が起こるとおもうのだが鬼輪はそこまで配慮がなかった。

「はいらない!そんなのはいらない!やだ、やだぁ!!!!」
「入ってるから、ほら、ね?」
「ひぐぅっ…」

 逃げることができないスターリングは全身を硬直させて押し込まれてくる圧力に恐怖する。

「はいって、るぅ…」
「大丈夫だろ?ほら、ゆっくりうごくから」

 泣いているスターリングに優しくキスをしながら鬼輪は揺らし始める。

「あっ…あ、あっ…ぁぁ…」

 もう諦めの境地に達したスターリングは壊れた玩具のように揺さぶられるがままになって声も漏れるだけにある。
 下手な抵抗は死しかないので正しい判断でもあった。



     ◇◇◇◇



 それから鬼輪がムラムラすると体を貪るようになった。
 スターリングも慣れてしまった。鬼輪は甘えるように抱き着いてくるので絆されたともいう。
 それに交わるようになってから傷口が少しずつ塞がるようになってきていた。

「どういうことなのかわからないが…まぁ、いいか」

 鬼輪は下半身の凶器で貫いてぐったりしているスターリングの左腕の傷口を確認しながら呟く。

「塞がるとこの血の味ともお別れなんだな…」

 言いながらまだ治ってない部分に噛みついて吸ったり舐ったりし始める。

「あ、あああああああっ!!!!!!!!!!」

 ぐったりしていたスターリングが痛みで元気になる。
 ぎゅうぎゅう締め上げてくるのが愛おしい。

「いたい、やめて、やめてぇ…」
「やー」
「いたいぃぃぃ!!!!」

 スターリングは泣きじゃくりながら鬼輪の肩に噛みつく。
 歯を立てているが肌を破くことはできなかった。

「これでイクの好きなくせにー」

 言いながら鬼輪は咀嚼するように軽く噛みながら腰を打ち付け始める。

「っお、ぉぉっ……」

 絶頂しながら気を失うスターリング。射精ではなく失禁なのはこういうふうに痛めつけるとしてしまう癖になってしまっているので鬼輪は特に何も思わない。
「可愛がりすぎた…。不味いな、殺してしまわないようにしないと…」
 言いながら意識を失っているスターリングの腰を持ち上げながら満足するまで犯した。





「ひっ…ふぅ…しんじゃう…死ぬ…」
「死なないから。ごめんごめん」

 鬼輪は苦笑しながら意識を戻したスターリングの頭を抱いて舌先を伸ばして顔の傷口を舐める。

「お前気持ち良いんだよ…」
「おなか、くるしい…」
「出しすぎたかな…?内臓傷ついてないよな…?」

 鬼輪は優しくちょっと膨らんでいるお腹を撫でる。

「痛くはないか?」
「あなた、無茶苦茶だ…本当。やめてくれ、何度も、その、粗相するのは、嫌だから」
「えー?それが好きなんだけど…」

 しょんぼり顔にスターリングはムっとした表情になる。

「あなた、変態」
「俺に変態って…自分に変態っていってるようなもんだぞ?聞こえてないだろうけどさ」
「ごめん、眠ります」
「疲れた?おやすみ、抱きしめさせてくれ」

 スターリングは鬼輪の腕の中で眠り始める。
 柔らかく暖かい美味しい自分。
 鬼輪は新たに生まれつつある鬼の衝動に耐えながら、スターリングに頬を寄せて目を閉じた。