正月は光来家の忙しい日である。
小規模な神社と言えども神社。初詣に近所の人たちがやってくる。
ついでに妖怪たちも挨拶に来るし今日は神までも来訪していた、神社で祀っている神に関係ない神である。
禄が休憩にと休憩部屋に続く襖を開ければ勝手に座ってるともわれる2柱がいた。
禄は眼が良いせいで『この世界』から視える形でモノが視えてしまう。
白い布を被った、なんかもやっとした――霧の塊が布を着て座ってるような…白神である。
その傍で赤い布を被った…布ではない、どこからともなく溢れてくる血がその身を流れて滴っている。畳は汚れていない。
血のフードで陰った顔は口元は人間なのだがその上は頭蓋骨だ、骨が剥き出しになっているのではなく、骨と肉が綺麗に繋がっている。
血と骨の神、通称神輪である。
手を合わせて十字架を携えている姿のまま赤いの…神輪は禄に視線を合わせた。目はないのだが。
『勝手にお邪魔してます光来の弟。白神が白神の使徒をここで待つとか言い出しちゃって。
すぐにお暇するつもりですが』
奏は今、巻といちゃいちゃしているはずだ。
「はぁ、どうぞそこでお待ちください…何か飲まれます?」
禄は目頭を指で軽く揉みながら問う。どうもこの神たちを直視すると焦点がブレて目が疲れる。
本体が別の次元にあるせいだろう。
『お酒が欲しいナー』
『奏は昨日茶を飲んでいた』
図々しい血と骨の神と自主性のない霧の塊。
禄は手早く神輪の前にビール缶をドンっと置き白神の前に茶の入った湯呑を置く。
そして自分も座りお茶を啜り始める。
『光来の弟は俺のことちゃんと視えてますか?』
「いえ、たぶん属性のようなものしか視えてないと思います
白神も霧の集合体に視えてますので」
『あー、なるほど…俺のこの整った顔がちゃんと見れてないのは損な目だなぁ』
神輪のたまーに滲み出てくる自意識を禄はスルーする。
『本質を正確に捉えられるのは良いことだ。すぐに殺せる』
『そうですね、良い眼です』
てのひらドリル。
「…血と骨の神って言動がふわふわしてますよね。信用されてますか?知り合いとかに」
『……言動がチグハグなのは3人ぐらいの人間が一つになってるからです。
視えてる姿もなんかぐちゃぐちゃでしょ?』
「そう…ですねぇ…たぶん?」
そもそも人外の姿でグチャグチャという基準がわからないので曖昧に答える禄。
「中に3人いるんですか?」
『いえ、中には2人だけ。主人格は俺。あーこういう話を初めて他人に話せてる。
さすが光来の弟、真理の眼を持ってて理解できるから話せるんだなぁ…
俺は未来に存在する神なので制約が多くて。たぶん俺の話を話そうとしても許される範囲しか話せなくなると思うんですよ』
「なるほど…その未来に辿り着いたら話せるということですね」
『そう、“終わった話”になれば大丈夫』
きっととんでもなく遠い未来の話なんだろうなぁと思う禄。
白神はずっと黙ったままだ。こういう神なので仕方がない。
そもそも神輪がフレンドリーすぎるともいう。
『あの、おかわりしてもいいですか?』
否、図々しい。