3柱の正月

「白神!赤毛のところへ新年の挨拶に行くぞ!」

 陽之は正法院の本堂に乗り込んで早々そのようなことをいう。
 いつもの白い僧衣に身を包んで奏たちと一緒に居た白神は無表情のまま視線だけ陽之に向けた。

「私はカナデと正月を過ごしている」
「吾と同じでウザがられてるじゃろ?行くぞ〜GOGO〜!」
「お前と違ってウザがられていない」

 むすっとしながら反論する白神を陽之は回収して出ていくのであった。
 それを静かに奏とレンは見送った。
 いつものことなので。



  ◇◇◇◇



「白神様はお通ししますがあなたはだめです」

 砂の神殿の門番であるミイラが陽之の行く手を阻む。

「吾が白神を連れてきたのに?そんなこという?」
「ほらみろ、帰るぞ陽之」
「白神様は大丈夫なので是非我が神にお会いしてください」
「いや用はない…」

 素直な白神。

「ここで帰したと知られたら、我が王からはお褒め頂けると思いますが我が神はしょんぼりしちゃいます」

 心苦しそうに訴えるミイラ。

「しょんぼりしちゃうのか…そうか…」
「吾はなぜかしょんぼりさせたくなってきたわ」

 揺らぐ白神だが陽之は基本的に天邪鬼である。掌くるくるだ。
 招き入れようとするミイラと帰ろうかなとなってる陽之に板挟みになる白神。
 邪悪を殺すこと以外は基本的に自発的行動をしないせいでひっぱられるがままである。
 奏は女運が悪いが白神は神運が悪いのかもしれない。
 とくに騒いでいたつもりはないが神殿から団体が出てくる。
 砂で出来たゴーレムに担がれた神輿に乗った不王であった。王族なので移動時はだいたい神輿に乗っている。神輪がいるときは乗っていないが。
 ちなみに砂ゴーレムは人骨を媒体に骸髏が作った奴隷魔導生物である。
 ミイラは門番などをしているが不王直属の魔術師たちなので偉い立場なのだ、エリートなのだ、門番やっているけれど。

「何をやっているか」
「白神様をお連れしようとしていました」

 礼を取るミイラを一瞥して不王は胡乱げに二柱を見下ろしてくる。神を不審者扱いだ。
 神輪以外には完全に塩対応なのが不王である、神輪の前では抑えているが。
 神輪が邪悪に堕ちれば白神に刈り取られるのは目に見えているし、陽之は月に呑まれた太陽なので不王の宗教的にあまり好ましくないのだ。

「新年の挨拶に来てやったんじゃぞ。通せ通せ」
「ダメならそれでいい、家に帰りたい」
「我は追い返したいところだが、下郎は白神の気配が解っている。しかたなく!とくべつに!通してやろう、ついて来い」

 引き返していく神輿。

「吾たち神に対して偉そうじゃない?吾は神ぞ?」
「お前は元・神だろう…。神じゃないものが神の顔をしていれば不快にもなろう。ちなみに私もお前に対して不快感はあるからな」
「えへっ☆でも付き合ってくれるおぬしのことだ〜いすき!」

 腹パンしようかな…と考えながら白神は不王の後をついていき、その横に並ぶ陽之はへらへらと愉快そうにしながら歩いている。
 神殿の中に入り、そして地下へと続く階段を下りていく。
 砂の神殿は石で作られた砂漠の中の神殿で、灼熱の砂漠を通り抜けてここに辿り着くようになっているが神たちは直接門へ転移して砂漠をショートカットした。
 その神殿を越えると極寒の雪原になっていて、それを通り抜けると雪化粧が美しい教会へと辿り着くような聖域になっているが、砂の神殿と教会の地下は謎の施設で繋がっていてそこでも雪原をショートカットできる。半袖Tシャツの陽之たちは雪原を通るのが面倒なのでありがたいことだ。
 今いる神輪の聖域は不王の精神である砂の神殿、骸髏の精神である謎の地下施設、神輪の精神である雪の教会、この3つが絡み合っている。
 つまり謎施設は骸髏の管轄なのでとても怪しげ。魔導生物の気配が壁の中、天井裏、床下からちらほら感じたり、施設を管理している無機質なゴーレムはこちらには無反応。前に陽之は興味本位でゴーレムの装甲を剥ぎ取ってみたことがあるのだが、想像していたメカメカしい中身ではなく痛いほどの刺激臭とともにグチュヌチュな内臓が詰まった何かしらが鼓動していた。人間がこれを見れば発狂していたかもしれない。
 別のタイプのゴーレムは生臭い人骨のようなものがいっぱい詰まっていた。陽之は懲りて好奇心を控えて欲しい。
 さすがに地下通路は高さと広さがないので不王は自分の脚で歩いている。
 聖域なので距離というものもあやふやなのでほどなくして教会についた。
 階段を上ると教会内部が広がっていて、迷うことなく神輪のいる聖堂へ向かった。
 聖堂の前で不王が扉を開こうとしたが勝手に開いた。

「白神!遊びに来てくれました!?!?!?感激!!!!」

 めちゃくちゃ食い気味に出迎えてきた神輪に白神は一歩引く。
 なんで懐かれてるのか、白神は理解できない。奏が女子にモテるのと同じノリであるが白神には解らないことだ。

「吾もいるぞ!吾も!見えてる〜!?」

 ぴょんぴょんはねながら白神の前に出る陽之。

「ああ、陽之さん、どうも」
「あけましておめでとうじゃぞ!」
「はい、おめでとうございます。お年玉ください」
「おぬしにもらうつもりで用意してなかった」
「おい!下郎に貢ぐのは当然であろう!出直せ!!!」

 手を出す神輪に、その手を握って握手の形になる陽之。ふざけるなと言わんばかりに不王はその手を払った。

「お前過保護なのかなんなのかわからんやつじゃな…」
「まぁここで止めちゃった俺が悪いんですけど、どうぞ中に」

 このままじゃ収拾つかないなと思った神輪は全員を中へ招いた。

「法輪使い、私はすぐに帰る。陽之に連れられただけだから。カナデと過ごしたいのだ」
「そ、そんな…遊んでくれるんじゃなかったんですか…!?」
「そうじゃ白神、薄情なやつめ。赤毛が可哀想じゃろ。酒を飲みながらゲームしよう」
「そうです!!!」
「ぇぇ…」

 渋々付き合うことになってしまう白神。
 不王もしれっと仲に入っていた。
 陽之と神輪が満足するまで解放されないのである。