書きかけ。途中で終わりマン
初めから六道は俺を見ていたのかもしれない。
ボーンゴーレムを製作するあの日、深紅の魔核が活性化したあの瞬間。
亀裂が走った空間に飲み込まれたボーンゴーレムと入れ替わるように伸びてきた骨の手は真っすぐスターリングを掴んだ。
術者の帝威家当主やコサック先生でもなく、近くにいた猛黒でもなく、真っすぐに。
そのまま引きずり込まれた時はわけが解らなかった。
なぜ俺がこんな目に?
異界に引きずり込まれ、光を吸い込む真っ黒い空を見ながら思った。そして映り込む巨大な骸骨。
ボーンゴーレムより巨体なそれに握りしめられていた。
魔を討ち払う聖句も何も骨の手には効いていない。
骸骨は灰色の大地を踏みしめながら奥へ奥へと進んでいく。
「―――俺を」
解放しろ、と言いかけて言い留まった。
ここでそれを言うとそのまま骨の手を開いて灰色の大地へ落とされると思ったからだ。
ただの想像なのに嫌に鮮明に叩きつけられる光景が浮かんで、スターリングは黙った。
ガチガチガチと重いものがぶつかりような音が頭上でして見上げると、骸骨が視線を向けて笑っていた。
何がおかしいのか解らない。
言い留まったことが面白かったのだろうか?なぜ?と思ったが、やはり言った途端に叩きつけるつもりだったのかもしれない。
それからは地獄のような時間だった。
実際にこの異界は地獄であった。
不可解だったのは、嫌な光景が思い浮かぶたびに骸骨が笑うのだ。
しかしそれも気にしていられる余裕はなくなっていった。当初は掴まれていたがいまでは手のひらに乗せるような状態になっていて眠ってしまえばずり落ちるか落とされるかしてしまうだろう。落ちないようにマフラーで体を縛り付けたが気休めだ。
しかし起きていても地獄の光景は酷いもので、気が狂いそうになる。気が狂っていたならこの目を潰していたかもしれない。そんな気がする。
あとは飢えと喉の渇き。血の雨が降ったときはそれで渇きを潤そうとしてしまうのを必死に耐えた。
あの世のものを口にすれば二度と戻れなくなるからだ。
肌を焼く灼熱や感覚を失う極寒を通り過ぎ、骸骨は足を止めた。
『―――金輪円迦、また会おう』
ひどく感情のこもっていない冷たい声だった。
そのまま振り落とされて酷い浮遊感に戦慄する。
「あ、あ…ア ァァ…!!」
久しぶりに上げた悲鳴は掠れてか細いだけだった。
奈落迦よりも下は虚空なのではないか。永遠に落ち続けるのか?底はあるのか?
「だ、れ―――か…」
空に手を伸ばす。それは本能的な動きであった。そのまま空を切ると思っていたがその腕は掴まれ体が止まる。
視線を向ければ長い赤髪の―――
「神…?」
相手は微笑んだように思う。瞬間、光に包まれた。
助けてくれた神はそのまま光となってスターリング…否、金輪の力となった。
現世に戻った金輪は幼いころ暮らしていた修道院の地下に現れていた。ボーンゴーレムとともに。
長い時間をかけて金輪は治療を受けることになる。
体は衰弱し骸骨により受けていた瘴気に体も精神も蝕まれ正気とはいいがたい状態だったためだ。
「あなた、これを身にまとって」
金輪の世話をしているシスターダリアはボーンゴーレムに白地の法衣を差し出した。
このボーンゴーレムは処分することになったのだが当初のスペック以上の能力を持っている上、なぜか金輪の手で浄化されるのを望んだ。
なのでシスターダリアの監視のもと修道院の一室に閉じ込めていたのだ。
ボーンゴーレムは素直にその服を身にまとう。
「…この法衣とこれであなたから溢れる瘴気は抑えられるわ。人間に対して不快感を与える、まで抑え込められるの。」
十字架を首からかけていうダリア。
「ならもう金輪のところにいってもいいな?」
骨だけだった首から上を人間の皮で覆って言うボーンゴーレム。
「これから俺が金輪の世話をする」
「信用ならないわ…」
「なんでここまでついてきたと思う?俺はあいつに救済されないといけねぇんだ。
金輪が元に戻らねぇと、なにもはじまらない、なにも」
殺気が溢れてくる。ダリアはボーンゴーレムを睨む。
「殺さねぇよ…抑える…」
「…私とともに行動して」
「あぁ」