遊郭の合間の時間軸をイメージ。
座敷で胡坐をかいて座り、瞑想する鬼がいた。
鎧を着こみ、刀を腰に差して。
いつもならば人間狩りをしているだろうその男は静かにしていた。
「…旋を迎えにいくのだが」
そろりと顔を覗かせて飛頭蛮が声をかける。
男…紫鬼は目を開いて視線だけ飛頭蛮に向けた。
「ついでに外へ出るか?」
「…いや。いい」
飛頭蛮から視線を外して再び目を閉じた。
「何故?」
「戦場の匂いがする。ここが戦場になるぞ飛頭蛮」
「よく、解らないが…じゃあ、旋がいるね?」
飛頭蛮は顔を顰めながら呟く。緑鬼も戦える。
緑鬼は死を呼びこんでいるのだろうか。否、死の匂いを撒くので以津真天が悦ぶのだ。
紫鬼だけでも大丈夫だろうが、形だけでも添えておきたい。
「…仲が良いな、お前たちは」
「お前と赤嶺みたいなものだ」
「そうか、そうか。…もし」
「ん?」
紫鬼が顔を上げる。
いつも思う、綺麗な顔だと。
体型は厳ついのだが女のように整った顔を持つ、その顔が好きだった。
美しい眼が飛頭蛮を見据える。美しい形の唇から名前を呼ばれて、飛頭蛮はゾクりとした。
「お互いの出会いが違っていれば、もっと深くなれていただろうな」
「なに、それ。赤嶺が怒るよ」
「赤嶺は心が広い」
微笑みながら火縄銃を撫でる。
「旋、連れてくる」
飛頭蛮は襖を閉じた。
『口説くとは、どうしたテルミ?』
「…さぁ、なんだろうな。もう少し、色々語り合いたかった。なぜか惜しい」
『帰ってきてから語り合え』
「あぁ、そうだな…赤嶺は心が広い」
◆◆◆◆
名前を呼ばれてこんなにも心が乱れるとは思わなかった。
(オレは…何でもいいのか)
旋が好き。弟がどうしようもなく…なのに紫鬼の顔に惚れているのか、油断してしまう。
出会いが違っていればどうなっていたのか…そもそも生まれた時代が違うのに、奇跡的に出会っていたとしても輝美は老人だろう。
黒い川に浮かぶ船に乗る。
「待っていましたよナミさん」
海難法師がいつもの微笑みを向けている。
この笑みを向けられると心が暗くなる。そういう能力があるのかもしれない。
紫鬼に高ぶらされた心が急速に冷えていく。まるで海の底にいるようだ。
とくに会話は交わさない。横にいれば十分なのだ。
白鬼の能力で旋のいる街へ向かう。
旋は遊んでいる。楽しいだろう、好きなことを存分にするといい。旋はずっと我慢してきたのだから、もう我慢しなくていいのだ。
目の前で旋の体が水しぶきを上げて落ちてきた。
そしてそれから離れた頭を受け止める。
なんだこれは
旋の頭を抱きしめる。
身体は法師に回収させて、あぁ早く繋げなくては。なぜわかれた?以津真天は何をしている?
あぁ、旋は狩られたのか――――
抑えていたモノが溢れてくる。
いつも抑えていた、生前の頃からずっと。人間は人間を殺してはいけないのだから。
ずっと我慢していたこの気持ち―――
でも、もう自分は人間では―――ない。
我慢しなくていい、殺せばいい、いらないものは殺して、欲しい物だけ抱きしめればいいのだ―――