ギャグ。
氷人とマツの逃避行は今日も続いている。
今日はマツが運転するバイクに乗って峠を走っていた。氷人はサイドカーに乗りご機嫌である。
「たまのツーリングも楽しいね〜!」
「そうだな…」
氷人にほっこりしながら頷くマツ。まっすぐ前を向いてほしい。
「ん?」
後ろから後続車の黒いバイクが来るのだがスピードを落とす様子がない。
それよりもクラクションで煽ってきたと思ったらマツのバイクを追い越しざまに中指を立ててきた。
「煽り運転だー!!!!」
「いやそれもそうなんだがあいつ首無くないか?」
苛立ちもあったが相手のおかしなところに気づいて困惑のマツ。
黒いバイクに黒いライダースーツ…首だけがない。
「夕方とはいえ日が落ちてないのに首無しライダーかぁ、珍しいね」
「ずっと煽ってくるんだが…」
「邪魔だね」
対応をどうしようかと困惑したままの二人。ふと氷人のスマホが鳴る。相手は金輪パパと同僚(氷人視点)の猛黒であった。
「はいはーい?」
『首なしに憑かれたな』
シンプルにモノ申す猛黒。氷人は後ろを振り返る。スポーツカーを運転する猛黒が追い付いていた。金持ちだなと氷人は思った。
「これ憑かれてるの?煽り粘着がすごいだけかと思ったけど」
『ここは元『七加峠』で朧車が去った後いつしかスピードに自信がある亡者どもがレースを仕掛けてくる、呪われた国道になっていやがる』
「とんでもないね。僕もスピードには自信あるよ。運転してるのはマツだけど」
『張り合ってどうすんだ…事故る前に俺が祓うから下がれって』
「マツ、猛黒がお祓いしてくれるっていってるよ」
「…なんかブレーキが利かなくなっているんだ、氷人」
「…わぉ」
「事故らないように集中する」
道は緩やかなカーブが続いている。
「猛黒、これ祓ったらブレーキも直るよね?」
『そうだな、相手は事故らせたいだけだからな。さっさと終わらせてくる』
猛黒の車が二人を追い越して首無しの横へ向かう。
3発ほど発砲音。首無しはよろけるだけで復活しスピードを上げて猛黒から逃れるように前へ前へ向かい始める。
「逃がすかッ!死ねやぁぁぁ!!!!!」
猛黒の雄たけびとともに首無しは後ろから追突されてそのまま猛黒の車と首無しともどもガードレールを突き破り崖へ落ちていく。
物理的な除霊にやっぱりパパの同僚だなと氷人は思う。ちなみに物理除霊の筆頭はグーパンしてくる高校生だ。
「だ、大丈夫か!?」
マツはブレーキをかけて止まる。
一瞬の間があったがゴスペェルと一体化して翼を生やした猛黒が飛び上がってきた。
「猛黒、車は大丈夫?」
「あぁ、それはまた買えばいいし」
「金持ちだなぁ…ところで帰りはどうするの?飛んでいくの?もしよかったマツと2ケツする?」
「いやここでお前の父親ら来るの待つわ、どうせ来るだろ。時間稼ぎしてやるよ」
「ほんとぉ!?ありがとーっ!!!」
「抱き上げるな!!!撫でるな!!!!!」
「でも本当にいいの?僕たちが駆け落ちしてる状態なのに」
氷人は猛黒を降ろしながら問う。
「…六道が氷人に憑こうとしてるだけだろ?あれ。たぶん生前の習性をなぞってるだけと思うけどよ。
肝心の金輪が六道に引っ張られてる状態なんじゃ話にならねぇし。お前に番が出来たせいでバランスが崩れたんだろうけどな」
「僕は僕の人生を生きたいからねぇ。マツとラブラブの人生さ」
「お前はそれでいいと思うよ。ほらさっさと行きな」
「うん!ありがとうね!結婚式には神父さんで呼んであげるね!」
「呼ばんでいい!!!」
笑いながら去っていく二人に叫ぶが、きっと聞いていないであろう。