途中で終わる
「バイカル湖にアザラシいるんだけどここからじゃわかんないねー」
    
     氷人は凍った湖を眺めながら言う。
 観光地だけあって観光客がちらほらといる。そして湖は大きい。割れた氷はその透明度から独特の色合いを発していた。
    
    「綺麗だ」
    
     マツはそう呟いて氷人に目を向ける。
    
    「湖のことだよね?ボクのことだったら来た意味なくなっちゃうんだから」
「両方かな」
「も〜」
    
     氷人はマツの手を握る。手袋越しではあるがマツの体温を感じた。
    
    「そろそろいこっか。ボクの実家」
「う、うむ…」
    
     緊張した面持ちになるマツがおかしくて氷人は笑った。
 氷人はマツと出会い拉致監禁されたことがある。
 それは前世からの因縁が原因であったが二人の仲は悪化するどころか深いものとなった。
 マツは覚えていないが氷人が前世の記憶を少し思い出せたお陰かもしれない。
 前世の氷人は己の顔が原因で生きづらく逃げる生活を送っていた。そこで出会ったマツは氷人の素顔を知っていただろうに、それに触れることなく一緒に旅をしてくれた。居場所を作ってくれていたことが氷人にとってとても嬉しいことであった。
 不幸な行き違いがあったがそれも前世のことだ。
 氷人は今を大切にする。
 前世マツは氷人への想いを伝えることなく内に秘めたまま逝ってしまった。
 だから現世ではめちゃくちゃに愛し合ってもいいはずなのだ。父たちの妨害を二人で乗り越えて。
    
    「んふふ〜」
「どうした氷人?」
「二人でゆっくりするのいいなーって」
    
    「おおーい氷人!」
    
    
 聞いたことある声に氷人は振り返る。
 ガタいのいい男が手を振ってかけてくる。
    
    「ダイ兄さん!?」
「スターリングから迎えを頼まれたんだ、一緒に行こう!」
「マツと二人で行くって言ったじゃないかー!二人っきりで行くからいいよ!」
「二人っきりだと呑気だから遅くなるって言われたからな。姉さんも待ってるし諦めろ」
「そんなぁ…」
「実家でゆっくりしよう氷人」
    
     苦笑してマツは氷人の頭を撫でる。ぶーたれる氷人にダイは笑った。