学譚時代。
夢を見る。
『酸漿さん』
屈託のない笑顔で手を伸ばしてくる爛発。
愛しくて愛しくて抱きしめるとボロボロと崩れていく。
「あ、あぁぁぁ…!」
土くれになっていく彼を必死にかき集める。
薬を、薬があればまた生き返らせることができる。
薬がない、薬…どこだ、薬はどこ――――
「―――疫病」
少年の声と共に意識が沈む。
「うっ…」
目覚める酸漿。
寝汗が酷くて髪が肌に貼りついてくる。
またあの夢だ。
あの夢をみると酷く体が重くなる。
土くれを人にする薬なんてないのに。
そんな薬は薬じゃない、魔法だ。
身を起こすと何やら玄関でガチャガチャバタンと音がして足音が近づいてくる。
「あ、酸漿さんちゃんと起きれてるじゃん。今から朝ごはんつくってあげるからシャワー浴びてきなよ」
もう我が物顔でこの部屋を歩く爛発が屈託のない笑顔でいう。
「…ん」
酸漿は両手を挙げる。
「えー、またぁ?」
苦笑しながら爛発は酸漿を抱き締め上げた。
身長差はあるが酸漿は細くて軽いので余裕だった。
「はい、シャワーいってらっしゃい」
「…」
素直にシャワー室へ行ってしまう酸漿。
(…またあの変な夢みたんだな)
爛発は朝食の準備をしながら思う。
自分が崩れてしまう夢だという。それを必死に酸漿が集めて蘇らそうとするらしい。
「俺は土人形じゃないんだがなぁ」
所詮夢は夢、と爛発は思う。
「今日の休みどうする?どこか出かける?」
「ゆっくりしたい」
珈琲を飲みながら新聞を読んでいる酸漿は答える。
「じゃあ、ヤろう!」
「…朝からぁ?」
「だって俺ずっと我慢してたんだぜ!?」
「若いねぇ」
「酸漿さんも若いだろ!そんなこといってたら老けるぞ!」
「はいはい」
****
「酸漿さん、すご、気持ち、イイ…」
爛発は息を吐きながら呟く。
酸漿は爛発のナニを咥えて奉仕していた。
最初慣れない頃はぎこちなかったが、今ではすっかり爛発に快楽を与えるまでに上達している。
「んぅ、ぅ…んぅぅ」
爛発の熱を飲み込んでいく。
「んぁ…はぁ…」
「ちゃんと飲めるようになったなぁ?」
爛発は酸漿の頬に手を添えながらいう。
「あさ、きぃ…」
酸漿は爛発を押し倒して圧し掛かってくる。
そして自分で腰を下ろして咥えこむ。
「あ、あっ…あぁ…」
初めてヤったころからこうだった。なぜか酸漿は爛発に尽くそうとしてくる。
本人も良くわかっていないので無意識なのだ。
「酸漿さんかわいー」
からかうように言いながら爛発は酸漿のナニを弄りはじめる。
「ひぅっ!ぅ、ぅぅ…」
その刺激に耐えながら酸漿は腰を上下に動かすのだ。
「あさきぃ…あさきぃ…!」
「好きだよ酸漿さん、マジ好き」
ヤり終えて、爛発はいつも酸漿に抱きしめられる。
そして微睡んだ表情の酸漿と会話をする。
不思議な会話をいつもする。
酸漿自身覚えていない会話をする。
「ふふ、あさき、秘薬はな、地獄の入り口にあるんだよ」
「地獄…?」
「そう…でも洞窟とか…池とか…コケが生えやすいところじゃないと取れないんだ」
「コケが薬の元なのか?」
「そう…」
酸漿は爛発の頭を愛おしそうに撫でる。
「あの毒沼は、よく採れたからお前の体をずっと維持できた…まだ体は大丈夫か…?ふふ…俺が守ってやるからな爛発…」
「酸漿…さん…」
ぎゅうっと抱きしめられる。
「ごめんなぁ…俺のせいで…」
「…」
爛発は謝られる理由がわからないまま、ぎゅっと酸漿を抱き返した。
****
地獄の入口というものは解らないが、『毒沼』は知っている。
夢で見て知っている。
いつも沼の淵で腰掛けて、沼の奥を眺めている夢。
夢が気になって探したのだ、その場所を。
そして見つけたが、行く勇気がなかなか出なかった。
今、その場所の近くまで来ていた。
薬の元を取ってくれば酸漿の悪夢はなくなるかもしれないと思って。
薄暗い森の中を歩む。
「それ以上やめな」
「!」
後ろから声がかかって振り返る。
黒ずくめの少年がいた。
「その先にいって、どうするんだ」
「酸漿さんが欲しがってるから…」
「お前は生きてるのに?反魂の術の秘薬がいるのか?どうして?」
「な、なんだよそれ…」
「ハッ!笑えるな。お前らはただ『疫病』に呼ばれてるだけなんだよ…今生きてるんだから今の人生を楽しみな。
地獄に踏み込んだら戻れなくなるぞ」
「えきびょう…?」
爛発は頭を抱える。
何か思い出しそうだ、何かを―――
「帰りな。そしてここには近づくな。夢は夢なんだ」
「……」
誰も居なくなった森の中、猛黒は息を吐く。
禄の予言のような注意でやってきてみればこれだ。
草木を掻き分けて、沼の跡に辿りつく。
奥には枯れた沼がある。それ以外は何もない。そう、何もないのだ。
『疫病』も土くれの人形も、溺死し朽ちた遺体も全て猛黒が葬った。
あるのはただここで過去に悲しいことがあった、それだけなのだ。