狐の妖怪たちから独り立ちした柳風は修行の日々を送っていた。
猿から武術を仕込まれた後は狐から仙術の手ほどきを受けて仙術を手に入れ、そうして妖怪集団の魔窟から解放されたわけであるがそいつらに比べると自分はまだまだ弱い。
強さこそ世界の頂点である。
なのでリウは修行の旅をしているのだ。
風を操って木々の枝を足場に飛ぶ。まだ空を自在に飛ぶまでにはいかない、未熟なのだ。
当てもなく真夜中の森を進む。別に寝なくても問題のない体になった。仙術のおかげだ。
あと何かが出てくれば修行の足しになっていいだろうし、そうなってほしい。
風が血の匂いを運んでくるのでそちらへ向かう。
獣の唸り声と打撃音がしてくる。
視界が開けると2足歩行の狼…ワーウルフと、それに立ち向かっている老人。
老人といってもよぼよぼな老人ではなく肉がついているし足腰もしっかりしている白髪の男だ。
守るべき部分に金属の防具を付けて盾とフレイムで人狼をいなしているが年齢的な動きの制限を感じた。
「うっ…」
フレイムが手から滑るように落ちる。隙が出来てしまう。
リウは跳んでいた。
人狼の牙が男の肩に食い込んでいくが男は盾を人狼の首筋へ打ち込んで蹴りで押し返す。
そこにリウの一撃。拳に風の刃を纏わせ行う一撃は人狼の硬い毛皮ごと肉を削り取っていく。
血肉を撒き散らしながら今度は蹴りを横っ腹にぶち込みそこも削り取る。
「一撃入れるッ!!」
後ろからの声にリウは地を蹴って離れた。
ゴシャリ、と潰れる音。人狼は頭を盾で殴り潰されていた。
「噛まれた時に頭を潰せてたはずなんだが…歳だな」
リウに手当をしてもらいながら男はため息交じりに呟いた。
「…アンタ握力たまになくなるでショ?」
掴んだ男の手を見つめてリウはいう。肩の手当てのために露出した傷だらけの肌、ごつごつした手。その手は微かに震えている。
ずっと戦ってきたことが解るが年齢のせいなのか蓄積された肉体へのダメージなのか、限界なのだろう。
「ジジイ引退しな」
「村を守るのが生きがいなんだが…」
「若いヤツに任るアル。ジジイになんで戦わせてるんだか」
「我が一族の宿命かな」
穏やかな笑みを向ける。
「いや、友の死に様が格好よかったんだ…あぁいうふうに死にたいな、と。もう無理な時代だが…」
「は〜?解らん。ワタシだったらこんな森の中で死ぬのはごめんアルよ。さっさと帰って床の上で死ぬアル」
「ふふ、手当ありがとう。助かった」
男は立ち上がり一礼する。
「我がジャック=シュヴァルツナイトの魂の名において、この恩を来世でも忘れないと誓おう!」
◆◆◆◆
「あ、仙人殿!今世では初めまして〜!」
「本当に覚えてるヤツがいるカ!?」