この世には神が居て、悪魔が居て、異界から紛れてくる魔物がいる。
 人間に危害を加える魔物を倒す稼業をしているシュヴァルツナイト一族のジャックは仲間を引き連れ魔物討伐に挑んでいた。
 相手はドラゴンゾンビ。怪しげな組織が産みだした人工魔物であるが、組織のことは専門ではないのでただジャックたちはゾンビをタコ殴りにしていた。再生能力がなかったので肉体をぐっちゃぐちゃにすればよかろうという脳筋対応である。
 ただデカいのでみんな必死であった。

「がんばれ♡ がんばれ♡」
「その掛け声やめろアル!」

 ジャックに叫ぶリウ。彼は必死に竜巻を拳や脚にまとわせて抉るように殴たり蹴ったりしていた。素手で触りたくないし。
 裏声をだして応援してあげたのに否定されたジャックはしかし笑顔でモーニングスターを叩きつけている。怖い。

「さすがの私も筋肉痛になりそうだから掛け声で気を紛らわせたい
 なんでこんな仕事してるんだろ…」
「気をしっかりジャック殿!!突き攻撃のわたしのほうが腕が死んでます故!!!!」

 槍でぷすぷすしている大和が励ましてくれてる。
 骨は基本砕いているが硬い骨にあたるとすごく手が痺れて辛いのだ。

「なんで…こんな仕事を…」
「伝染するんじゃねぇアル」

 大和も落ち込んできたのでリウがキレる。

「あれ?あれ魔核では?」

 亀裂が入り朽ちた箇所が空洞になってきているゾンビの腹の部分に赤い光が見えた。

「ホントネ!!ヤマトこっちこいアル!!!」
「はいはい」

 リウのもとへやってきた大和は槍を構える。

「では撃ちます」
「いけアル」

 ドン!っと発射音と共に槍の刃の部分が射出され、リウが竜巻を纏わせて邪魔な肉片を蹴散らしながら魔核に刃を到達させる。
 ゾンビはけたたましい悲鳴(どこから声が出てるのか不明)をあげながらどろどろに朽ちていく。

「臭い…」
「ゾンビはいつもそう」
「帰るアルね」

 3人は精神的にへとへとになって帰るために森を抜ける。

「あ、終わったかな?迎えにきたよリウ・フォン」
「うげぇぇ…」

 道の横の開けた場所にヘリが止まっていて、そこに佇む一人の男。ラハブ=ナール=アル・カウィー=シャルフーブ。
 ニッコニコ笑顔であったがその顔をみてリウは嫌そうな顔をするのである。

「……」

 リウはジャックたちを見るがジャックたちはスス…っと下がっていく。
 相手は油田を持った石油王であるが、そんな男のご機嫌をわざわざ下げることもないし本当にリウがイヤならラハブは殺されているだろう、そうジャックたちは判断している。
 リウはめちゃくちゃ渋顔でヘリに乗り込んでいく。

「リウ・フォンに連絡が必要だったらこっちに連絡をしてくれ。じゃあなジャック」
「はい、ごきげんよう」

 リウとラハブの関係はどこまで行っているのかまったく把握できていないジャックであるが、仲良しなんだろなと適当に思った。
 ラハブはそこそこの年齢であるがリウ自体が結構な歳だ、リウのがラハブより上だろう。
 (デカい)生娘みたいな外見でも爺のリウが受け入れてる様子なのでジャックたちは見守るのみである。



   ***



 ラハブの豪邸でリウは接待を受けまくり本人もくつろぎまくっている。
 慣れたものだ、お姫様ごっこも受け入れてしまえば楽しい。
 広いベッドに寝っ転がっているとラハブが横にきた。

「リウ・フォン、そろそろえっちなことしてもいいと思わないかい?」
「いやアル。なんでワタシがオマエと乳繰り合わなくちゃいけないんだ?」
「そういうところが好きだなー」

 ラハブは笑みを浮かべながらリウの額に口づける。
 好みだとか気が合うとか言ってリウを甘やかしてくるのだ、財力で。
 今までツンツンしていたリウであるが、ちょっと可哀想に思えてきた。
 リウはずっと若いままだが彼はどんどん老いていくだろう。このままじゃよぼよぼになってもずっとこんなこと言ってそうである。
 ならまだ精のあるうちに搾り取るのが健康的ではないか?
 リウはこのゆるい生活のせいかゆるい考えに至った。

「啊…胸だけなら触っていいアル」
「え?本当に?」
「胸だけだぞ」

 リウはラハブからそっぽを向きながら胸元を開く。

「では遠慮なく…。柔らかいな」
「柔らかくないアル…」

 むにむにと揉まれている。

(……太った?)

 食っちゃ寝生活で筋肉が柔らかくなってしまったかもしれない…。
 リウは地味にショックを受けた。日頃の運動は大切なのだ。
 ラハブは正面から揉んでいたが次第にリウを後ろから抱きしめる形でむにむにしはじめた。少々リウのガタイが良いのでラハブの腕の中に納まっているというよりはラハブがリウにくっついてるように見える。
 ちゅ、ちゅ…っと軽く首筋にキスをされ始めてリウは顔を赤くして震えて耐える。恥ずかしい。
 そう、今まで拒んでいたのはただただ恥ずかしかったのだ、嫌悪は感じない。ただ恥ずかしい、照れる、それだけ。
 今もとても恥ずかしい。胸なら大丈夫かなと思った自分に言いたい、大丈夫じゃないと。
 うなじを甘く噛まれてリウは艶のある声を漏らしてしまう。

「…リウ・フォン、もう終わろうか?」

 気を遣って耳元で囁いてくる。頷けば本当に終わってくれるだろう、そういう男である。
 どうしよう、どうすれば?とリウはおめめぐるぐるの混乱状態になっていた。
 別に体は欲しがっているわけではない、幼少期に殺されかけた痛い記憶しかないのだ、本来なら嫌悪して拒むところだろう。
 そこをリウの心はもっとラハブに触れていたいと思っているのだ、今素直になる時だろうか?
 リウはラハブから体を離して背を向けたまま、振り返らず近くの盆にのせたままだった酒を一気に飲み干して服を脱いだ。

「…ラハブ」

 真っ赤な顔で四つん這いになったまま、リウはラハブを呼ぶ。
 そこからは早かった。
 ラハブも服を脱ぎ捨ててリウを後ろから抱き、酒の力を借りて力が抜けたリウはラハブに全てを委ねた。





 食っちゃ寝生活はその夜を境にしてベッドの上で怠惰に交わる日々に変わった。
 ラハブはこれまで我慢していたのだ、もう自分が死ぬまで抱こうという意気込みである。
 仕事は大丈夫なのか心配になったリウだが全部部下に任せているのでまったく問題ないんだろうなと思い直した。

「はっ…ぅん、あっ…あっんっ…」

 腰を打ち付けられリウは仰け反りながら声を上げる。
 身体の相性がいいのだろう、突かれれば突かれるだけ気持ちが良い。
 ラハブが被さってきてキスをされるのも存外良かった、身体が拒絶するかと思ったが嫌な記憶が上書きされ消されていくようだ。
 もちろん忘れてしまえるわけではないのだが、わざわざ思い出すこともないだろう。もう何百年も前の話だ。

「ラハブ、あつぃ…あぁ、あぅ…」

 ラハブの舌が熱い、中に突っ込まれてるナニも、抱きしめて触れ合っている肌も―――

「…ん?熱い!?」

 リウは顔を離してラハブの腹を蹴り飛ばすとそのまま突風を起こしてラハブをプールの中へ突き飛ばした。
 なんで部屋にプールがあるのか意味が解らなかったがこのためなのかもしれない。

「オマエ!自分の血が沸騰してたんじゃないだろうな!?!?」
「げほ、いや、ちょっと、興奮しすぎたかな?」

 プールサイドに身を寄せてラハブは申し訳なさそうに言う。

「抑えてたんだけど、リウ・フォンが可愛いからさ」
「人のせいにするなアル。ヤってる最中に人体発火とかやめろ」
「はい…。困ったな、あまりのうれしさに我を忘れ過ぎたみたい。今後は気を付けるよ」
「本当に気を付けるアル」

 プールに入るリウ。
 ラハブの手を取ってその体温を感じる。

「…まだ熱いな。人間の体温になるまでここにいろ」
「うん、ごめんね…イけてなかったよね。指で最後までしてあげようか?」
「や、うーん?指でヤれるのかオマエ」
「リウ・フォンの身体がえっちだからね」
「ハァー!?普通だが!?」

 なんやかんやでプールの中でもいちゃいちゃした。