観光で復興しようとする元因習村に退魔師たちが集まって何も起こらない話

 とある因習村があり、過疎となり因習は薄れそして時の開発事業が村を襲い―――
 特に不幸な事故は起きずに村は観光地として生まれ変わった。
 村で祀られていたものはいなくなったのか?

 ―――否、いなくなってはいなかった。

 正直に言うとお寝坊さんだった。
 気づいたら村が村でなくなり、困惑し、おうちの祠は消え去っていた。
 いまだ存在で来ていたのは山自体から魔素が溢れ『魔素溜まり』でぐっすり寝ていたおかげだろう。
 おそらくそんなところで寝ていなければ異変に気付いて目覚め、開発工事を遅らせるのを繰りかえし開発中止などができただろうに。
 今更な話であった。




■東の教会組

 今回はちゃんとした方法で金輪たちはこの地に入国していた。
 法衣ではなく一般的な普通の格好をした金輪、いつもどおり白服の六道、そして修道院からたまにしか出てこないダリアとダイのアッシュ姉弟とダリアがいるので機嫌のいい不王。
 アッシュ姉弟の格好も金輪同様一般的な服装だ。

「氷人がここにいる…」

 金輪は据わった目でぶつぶついっている。

「そうですね、はやく見つけてしまいたいわ。
 そろそろ親の顔合わせを済ませて結婚式の日取りも決めなくちゃ」

「「結婚!?させるかそんなこと!」」

 六道と金輪が同時に叫ぶ。怒りの形相だ。

「…スターリングさん」

 ダリアは金輪の腕に手を添えると金輪の表情が抜ける。

「骨の魔物、スターリングさんを巻き込むのはおやめなさい。
 氷人はね、もう大人なのです。赤ちゃんは卒業してます」

 金輪の身体に染み込んでいる六道の瘴気を能力で吸い取ったダリアは六道を睨みながら言う。

「…そうだな、氷人も大きくなった…なんか頭一つ分大きくなった…
 あんなぷにぷにだったのに」

 金輪は額に手を当て呟く。思考が戻ったらしい。

「そうですスターリングさん。もう氷人は親離れをしているの。お解り?」

 小さくうなずく金輪。

「すまないシスターダリア…しばらく手を繋いでいてもいいか?
 どうしても六道に引っ張られる」
「仕方ありませんね…」

 手と手を握り合う二人。恋人繋ぎ。

「…びっくりするだろ、あれで付き合っても好き合ってもいないんだ。
 風呂も一緒に入る」
「どういう精神構造しとるんだ?」

 後ろでダイと不王はヒソヒソしていた。
 金輪という道具をも取り上げられた六道は完全に拗ねて石を蹴っていた。子供か。



■欧羅巴組

 賑やかな団体がいた。
 ジャック一行である。ジャックの恋人であるシャーロットの横にピッタリくっついてる双子の兄カストール、
 続いて同業の大和とリウ、そしてリウについてきたラハブ。

「なんだか悪いね…慰安旅行みたいになっちゃって…」

 ジャックが申し訳なさそうにラハブに声をかける。

「なぁに賑やかな方が楽しいだろう、気にしなくていい」
「お前呼んでないアルよ…どっから嗅ぎつけたんだカッ…!!!」

 悔しそうなリウ。
 ジャックが大和に息抜きに旅行でもしようか、という話になってたまたまリウにも声をかけたらこうなったのである。
 奢ってもらえて大和も喜んでいるのでジャックは深く考えないことにした。マネーの力こわい。

「ねぇジャック、ここの温泉宿ね家族風呂があるらしいのよ」

 シャーロットがジャックの手を握りながら見上げてくる。

「一緒に入りましょうね」
「もちろん」
「あぁ…?家族なんだから俺も一緒に入るぞ…?」
「邪魔すんなー!」

 ジャックを間に挟んで兄と妹が睨み合う。お兄ちゃんは妹の貞操が心配なのだ。
 大和たちは一歩距離を置いて落ち着くまでイチャイチャを無の表情で眺める。

「絶対こうなるって思ってました」
「だったら断ればよかったアル」
「奢ってもらえると思うとッ!」
「現金なやつ……」
「柳風も彼ぐらいになってくれればいいんだけどなー」
「絶対にイヤッ」

 ラハブに何かされるのをリウはとことん嫌がるのであった。拒みつつもこうやって付き合ってくれているけど。



■みこちゃんチーム

 みこは商店街の福引で旅行券を引き当てた。
 それでもって沙汰と旅行がしたかったが、それを上回る気恥ずかしさにいつものメンバーを巻き込んでの友達旅行となった。
 夏休みの友達との旅行は友達のいないみこ的に青春を感じたので満足である。(※ここはサザエさん時空)

「んふふ…年頃の男女、夏の旅行…何も起きないはずもなく…」
「起きないよ」
「起きてもえっちなことじゃないと思いますねぇ…殺人事件とかじゃないですか?」

 みこに呆れた表情でつっこむ奏と巻。

「大人になる時間じゃないの?夏休みって」
「それは土鎌くんと二人でどうぞ」
「奏くんもだぞ☆」
「ほんと勘弁してほしい…」

 沙汰から殺気を含んだ視線が痛い。

「みこさん、山林でのえっちチャレンジは止めておいた方がいいですよ、なんだか肌にまとわりつくぐらい魔力が濃いんですよ
 この場所。私に魔法を使わせたら絶対によくないことが起きますよ」
「触手大爆発はちょっと見てみたいかも…」
「絶対にさせませんからね、そのために僕もいるからね」

 巻の兄である禄がニッコリと笑っていう。
 お兄ちゃんがいるのにみこは通常営業であった。怖いもの知らずである。
 禄という赤の他人がいるため沙汰も奏に噛みつき吠えるのを控えている。躾のなったワンちゃんなのだ。
 めちゃくちゃ睨んでるけど。

「殺す…」

 ちょっと口からも殺意が漏れちゃってるけれど。
 みこといちゃいちゃさせれば大丈夫だろう。
 奏はいつ二人をくっつけるかを考え、巻はいつ奏と二人っきりになるかと思案した。



■フィールドワークに来た教授と生徒たち

「良い濁り、開発することによって地脈がズレて良い感じに一つにまとまったのか
 人工的に地脈を太くすることってできるんだな…へぇ…」
「絶対悪いこと考えてる顔してますわ」

 ニコニコしてる帝威教授に火焼は呟く。
 いつものメンバーである教授の助手であり半魔となってしまった真奇と生徒ということで着いて回っている火精霊の火焼、
 生徒というには無理があるだろと思っている幽霊船の海津と大百足の躄地は教授とともに森の中にいた。
 彼らとしてはどろっとしていて肌にいい感じの魔力を感じている。
 逆に奏や金輪のような魔力を溜めこんでしまう体質ならちょっと気持ち悪くなるだろう。
 帝威教授は色々調べた後、持ってきていた2本の黄金色の突起物―――悪魔王の角を地面にぶっ刺した。
 角から紫電が迸り魔力を吸っていく。

「あっはっは、いいねぇ吸ってるよ。これぐらいの濃さがあれば生物からじゃなくても吸うんだこいつは。
 …なんで前世の私は頭に突き刺したんだ…バカめ…」
「前世の王様はホラ、精神的に追い詰められてたからサ…元気だそうぜ!」
「そうそう…ん?これ補充終わらせたらどうするつもりだ」
「…王様?」
「ねぇ教授、また頭に刺しませんよね?」

 生徒たちから疑惑の目。
 ふわっとした風と共に教授に影が差したと思ったら黒いものが降りてくる。

「…おい、なにやってんだお前ェ」

 猛黒が政の肩をぎゅっと掴みながら問いかけてくる。

「お、おにいさん…えへっ」
「………」
「道具の手入れをするのは学者としての性分でしょう?」
「……」
「かわいいおとうとのすることですよお兄さんっ!」
「かわいくねぇんだよ!」

 角を引き抜く猛黒。

「あぁっ!まだ充電できてないのに!」
「うるせぇ〜!折るぞこれ!」
「や、やめてくださいお兄さん!悪いことには使わないから!」

 悪いことしようとしてたんだ…生徒たちはそう思いながら叱られる教授を眺めていた…。