ジャックさんの独白?みたいな短編
酷い匂いの中ジャックはひたすら歩む。
とにかく不快だった、血肉の匂いは足元に散らばる臓物のせいで、それを踏みつける感覚も不快で。
倒れている仲間たちもいる。
仲間といっても顔見知りで、あいさつ程度の付き合いだったが、それでも動かなくなっているのを見るのは辛い。
斬撃音や破裂音が兜越しでもうるさい。
感覚が研ぎ澄まされすぎていて何もかも不快だった。
早く終わらせるには悪魔たちを殺し尽くすしかないのだ。
襲い来る魔物やら悪魔やらを己の武器ですり潰しながら進んでいくと見知った背をみつけた。
ゾっと血の気が引いた。
見つけた一瞬は嬉しく思ったが人の形を保てていないことに気づいて。
罠かと思ったが違うようだった、彼の足元で大怪我を負いながらも銃に魔弾を込めながら威嚇射撃をしているハンターがいた。
「大丈夫か」
ジャックは駆け寄る。その者は顔見知りのハンターだった。
「ああ、シュヴァルツナイトさま、すみません、おれのせいで、おれの」
「落ち着いて」
ジャックは宥めながら状況を把握する。
そして視線を彼へと向けた。腕は無く背から何本も棒や槍が生えてしまっている。
足元のハンターを庇ったのだろう、そして死んだのだ。
ジャックは彼の前へ出る。
彼は前を睨んだままだったがその目にもう光は宿っていない。
「大和…あとは俺がやるからな、遅くなってすまない」
ジャックは目を覚ます。
自室の見慣れた天井だ。
寝汗が酷い、手で顔を覆う。手は肉を潰す感覚がまだ残っているし、夢の残滓が目の奥にある。
ジャックは断片的な前世の夢をみる。
退魔師や魔術師といった魂が強くなる傾向の人間によくある症状だ。
魂の記憶が残りやすいためである。
もちろんまったく前世を思い出さない者だっているし前世は前世なので引っ張られるということもない。
ないのだが、絶対というわけでもなく。
仲間が死んでいく記憶は精神的に辛いのだ。
当時は割り切れたし悪魔との戦争をやっていた時代だったから受け入れることもたやすい。
だが今は平和な時代だ、悪魔も僅かに現れる程度で魔力が希薄になったせいで怪異も少なくなった。
人が簡単に死んでいく時代ではなくなったわけで。
メンタルがきつくなるのである。
「はーーー」
ベッドの上で息を吐いてジャックはシャワーを浴びて気分を切り替える。
夢なので時間とともに幻視は薄れていくので慣れてるといえば慣れている。
最悪な目覚めなのは否定しない。
身体をスッキリさせ、じっくり紅茶を入れて緩やかな朝を堪能したところでまぁまぁ気分は持ち直した。
今日の予定を振り返る。
大和と仕事だった。タイミングに悪意のある夢である。
「…気にしてるのかな」
思わずつぶやく。前世の自分は、後悔してるのかもしれない。
前世の大和の死の原因は戦争であるけれども。もっと早く合流していれば、とかもっと違う選択をしていれば、とか。
あの後に色々考えたのかもしれない。
しかしもう終わってしまっていることなのである。
なにもかも。
だから今できることを考えるべきで、ジャックは一つ決めている。
大和をめちゃくちゃ甘やかすことである。
時代のせいか今世の大和はちょっと控えめで謙虚である。なので無茶はしないだろう。
そんな大和にできることは甘やかすことしかない。
シュヴァルツナイト一族は一度決めたことは必ずやり遂げるので、大和がベッドの上で寿命で死ぬまで甘やかすと決めた。
この話を恋人のシャーロットに告げるとなんかめちゃくちゃ引かれたけど。
シャーロットも甘やかす対象なので引いてる場合ではないのだが。
ジャックは夢の不快感があったことなんて忘れて今日一日を過ごすのである。