異国召喚

 気づいたときには既に円形の光が足元から溢れ出ていた。
 一瞬意識が切れるが握りしめたままの槍で体を支える。
 咄嗟に閉じてしまっていた目を開くと森の質が変わっていた。
 今まで鬱蒼とした森の中にいたが、目の前に広がる森は真っ黒だった。
 光が無いのだ、明け方だったのに今は深夜の様に暗い。

「…」

 大和は視線を巡らせ足元の死体に気づく。
 背をズタズタに引き裂かれて事切れているが、おそらくここに自分を呼び込んだのがこいつなのだろうなという判断をした。
 最後の力を振り絞って、といったところだろうか。大和はそう判断をして槍を水平に構えて走り出す。
 先ほどから戦闘音がしているのだ。
 ここがどこだか解らないが、呼ばれてしまったということはこういうことのために呼ばれたに違いない。
 飽き飽きしていたのだ。
 海の外からの侵略だの、天変地異だの、だから大人しくして周りの怪異でも退治してろと投げやりにされて。
 妖怪も食える妖怪ならまだしもあいつらは食うところがない。
 ここに呼ばれたということは「求められている」し、「そう振舞っても良い」ということだ。
 人型の獣と戦う人間の姿がおぼろげに見えた。

「ひとぉぉぉぉつッ!!!!」

 勢いのまま槍で獣人の首筋を貫く。
 ぐっと両足で踏ん張り勢いを殺して加わっている力の方向を変える。
 槍を持ち上げそのまま背負い投げのように槍ごと地へ獣人を叩きつけた。

「va...Vad??(な、なに?)」

 戸惑う人間の声を後ろで聞きながら大和は再び槍を持ち上げ走り出した。
 もちろん獣人をぷらぷら吊り下げて。
 5尺ほどの大和より(彼は161センチ)獣人は大柄であったが軽々と持ち上げている。
 その上走っている。
 周りで戦闘していた者たちは乱入者に困惑し、攻撃性の高いモノは大和に向かって火球を撃ち込むが大和はぶら下げた獣人で防ぐ。燃え上がる獣人を振り落としてそのままの勢いは落とさずに火を撃ったコウモリのようなカタチの獣の額を槍で貫いた。

「ふたぁぁぁぁつっ!」

 クマより手ごたえがないので楽でヨシと気が良くなってきた大和は肉壁ハンマーと化した槍で手あたり次第に殴り始めた。
 途中で数えるのも飽きて数が解らなくなった。
 人間側も大和から距離を取りつつ陣を立て直して後退し始める。
 何か喚いてくるのだが言葉が解らない。
 ふと風を感じた大和は身を伏せる。
 バギバギと近くの木が砕ける。二回りほどデカい獣人が突っ込んできたのだ。
 槍を突き出すがクマ並に硬くて槍がとうとう折れた。
 すかさず槍から手を放して地に転がる遺留品であろう大剣を持ち上げ槍と同じように突き出す。
 まさかそんな動きをするとは思っていなかったのか、ただ知能が低いのか大きい獣人は首を剣先で引きちぎられた。
 しかし体は動く。
 大和の肩を掴み腕を引きちぎろうとしてきた。
 偶然足元に転がっていた折れた槍の柄を蹴り上げてそのまま心臓へ差し込んで大和は抜け出す。
 獣人は今度こそ息絶えたのか倒れた。
 きっとこれが群れのボスに違いない。大和は暗くて見えにくい周りを見渡して丁度いい槍を拾い上げてボスの頭を突き刺し天に掲げる。

「敵将討ち取ったりぃぃぃぃぃ!!!」

 腹の底から叫ぶ。
 勝ち鬨はした方がいい、相手を怯ませてナンボであるので。
 生き残ってる獣たちは狼狽えて逃げていくモノもいる。所詮ケモノだ。

「はーっはっはっはっは!
 あーっはっはっはっはっは!」

 ハイテンションで大和は笑う。
 仕方がない、だって時差ボケな上に徹夜明けのようなものである。寝てない。

「Halò(こんにちは)」

 声がかかり、大和はそちらへ視線を向ける。
 かろうじて鎧を着た男だと解った。
 男は兜を外して微笑むが、暗いので大和には詳細が見えない。
 仲間らしき者が後方から松明を持ってきてやっとなんとなくわかった。
 ちらほらと明かりがともり始める。どうやら落ち着いてきたらしい。
 みんな血みどろであり、周りは枝かな?と思っていたものが人だったり獣人だったりした。
 踏みつぶしちゃってたかもしれない。

「An toiseach, tapadh leat.Dè an t-ainm a th’ ort?(まずはありがとう、君の名は?)
 A bheil thu a' tuigsinn nam faclan?(言葉は解るかな?)」
「なにを言っておられるのかさっぱりわかりませぬ」

 男が首をかしげるので大和もつられて首をかしげる。

「あぁ、そうだ。案内を…これはもういらぬか」

 首を槍ごと投げ捨てて、大和は男を真っすぐに見る。

「某が来たところを見ていただければわかるだろう、たぶん」

 大和は指を指し歩き出す。振り返って男が付いてくるのを待つ。
 どうも仲間が止めているが、一言二言と言葉を交わして男はついてきた。
 微笑んだままだ、彼も疲れてるのかもしれない。
 魔法陣の元へ案内をすると男は把握できたらしい。大和を召喚したと思われる仲間の亡骸に気づいて駆け寄り、何やら言葉を詰まらせながら言い聞かせ、マントを外してそれで亡骸を包み抱き上げる。

「An tig thu còmhla rium?(ついて来てくれないか?)
 Tillidh sinn chun bhunait againn.(私たちの拠点に戻ろう)」

 大和にそう言って男は歩きだす。
 大和は理解できなかったがここに置き去りにされても困るので後をついていくことにする。

「Theagamh gu robh e a' feuchainn ri spiorad no beathach a ghairm.(彼は精霊か獣かを呼び出そうとしたのかも。)
 Tha mi duilich airson do chuir an sàs.(君を巻き込んでしまって申し訳ない。)」
「何を言っているのか解りませぬが、元よりここで帰っても暇なだけなので付き合いますよ。
 獣の化け物に攻め込まれているのでしょう?慣れています」

 とくに示し合わせたわけではないがお互い言葉が通じないので言いたいことだけいうことにした。
 よく喋る男だなぁ、なんて思いながら。

英文はスコットランドだったかな?あくまでイメージです。